FEARLESS

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娘に喰わせてもらってます。 桜すずか

都内でも指折りのお嬢様校への入学が決まった時、私より喜んだのは母だった。朝はまずお花の水やり。旧校舎への渡り廊下を抜け、礼拝堂でお祈り。金木犀の香りに包まれながら授業を受け、級友たちと夕方まで部活。男子禁制の学び舎で恋愛話に夢中になって、‘いつか私も恋とかしちゃうのかな’なんて夢見ながら帰宅する…。それが私の学校生活、私のすべてだった。壊れたのは2カ月ほどまえ。順調だった父の事業が大きな損失を抱えたのだ。すべてを立て直すには生活レベルの見直しが必要だったが、住んでる場所も、ハイブランドの衣服も、何一つ諦められない母がそれを許さなかった。ある日、会社の経営者だと名乗るオジサンを母に紹介された。「スズカの初めてをね、この人が高く買ってくれるって」 私はそのとき母になんて答えたのか覚えていない。覚えているのはたくさん泣いたことと、オジサンの歪んだ笑顔と、下半身の鈍い痛みだけ。それから母は父に内緒で色んな男の人を連れてきては、お金と引き換えに私を抱かせた。どれだけ私が嫌がっても、家族のためだ、私のためだと、怒鳴られた。今日もまた知らない場所に連れていかれる。私にできることはもう、早く時が過ぎ去るように目を閉じて祈ることだけだった――。虚栄心に囚われた母の呪縛から逃れられない…健気で哀れな少女のおはなし。
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娘に喰わせてもらってます。 永野鈴

「仲良くしようね」 私の肩を抱くオジサンの笑い声。部屋から出て行く母親の背中を見つめながら、私は泣きたい気持ちを必死に堪えて目を閉じた――。小さな頃から母の愛情はいつも兄に注がれていた。出来の良かった兄、悪かった私、褒められる兄、叱られる私、それが日常だった。父はそんな私を見かねて、よく散歩に連れ出してくれた。肩車して、お菓子を買ってくれた。優しくて大好きだった父。でも父は突然居なくなった。それ以来母は毎日のように父の悪口を私たちに聞かせ続けた。「最低な人だった」「居なくなって正解」「親子3人で頑張ろう」「私たちは幸せなんだ」と。そうでなければ許されないと、自分に、私たちに、呪いのように言い聞かせた。やがて生活が困窮してくると母は「家族のため」だと言って、私に身体を売ることを求めて来た。兄はどうするのだと聞くと、兄は良いのだと怒られた。イヤだった、辛かった。知らない大人に身体を舐めまわされて、これのどこが幸せなのだと、なぜ私だけと泣いた。でも弱かった私には、此処しか居場所ないのだと、これが自分の役割なのだと受け入れるしかなかった。「キミってさ、夢とかってないの?」 オジサンはそう言いながら私の体を撫でまわす。願うことすら許されないなら、夢なんて見たくない。家族の絆が無垢な心を追い詰めた。哀れな少女の物語。